こんにちは。今回は、スポーツ指導の現場で今注目されている「ダブル・ゴール・コーチング(Double Goal Coaching)」について、少しじっくりとお話ししたいと思います。

勝利を目指すのは当然。でも、それだけでいいのでしょうか?


■ そもそも「ダブル・ゴール・コーチング」って何?

アメリカの非営利団体「Positive Coaching Alliance(PCA)」が提唱する指導哲学で、主な特徴は名前の通り「2つのゴール」を同時に目指すことです。

ゴール①:勝利(Victory)

チームの目標として当然ながら、試合に勝つことを重視します。

ゴール②:人間的成長(Human Development)

選手がスポーツを通じて、社会性や倫理観、協調性、自尊心などを育んでいくことを大切にします。

この考え方を日本で広めているのが、NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブ(SCI)
日本語でもわかりやすく体系化され、多くの現場に導入され始めています。


■ なぜ「二つのゴール」が必要なのか?

最近のスポーツ界では、勝利至上主義による問題が数多く指摘されています。

  • 結果を出せなかった選手が自己否定に陥る
  • ミスを恐れて挑戦を避けるようになる
  • コーチと選手の関係が「圧力的」になる
  • 成績が出ないとスポーツ自体をやめてしまう

これでは、どんなに勝っても長続きしませんし、人生には繋がりませんよね。

そこで必要になるのが「育てる指導」。
勝ちを目指しつつも、「心」と「スキル」を育てる視点です。


■ ELMモデル:努力・学び・失敗の肯定

ダブル・ゴール・コーチングの中核をなすフレームワークの1つが「ELM(エルム)」です。
これは、選手の内面的成長を支える3つの価値を表しています。

✅ Effort(努力)

努力そのものに価値があると伝える姿勢。
→ 例:試合で活躍できなくても、取り組む姿勢を認めて声をかける。

✅ Learning(学習)

成功も失敗も「経験から学ぶ材料」。
→ 例:負け試合のあと、「何が得られたか?」をチームで共有。

✅ Mistakes(失敗)

ミスを否定しない文化をつくる。挑戦の中にミスはつきもの。
→ 例:「失敗を恐れないプレーこそが成長の種だ」と繰り返し伝える。

🎯 これはいわば、選手の“内発的動機づけ”を育てる手法なのです。


■ 感情タンク:心を満たすと、力が出る

選手の「やる気」や「挑戦心」を引き出すためには、技術的な指導よりも先にやるべきことがあります。

それが「感情タンクを満たすこと」。

感情タンクとは?

選手の心の中にある“感情の容器”のようなもので、これが満たされていると、選手は安心してチャレンジできます。

タンクを満たすには?

  • 小さな成功を見つけて具体的に褒める
  • 悩みを聞いて共感する
  • 「お前ならできる」と信じて声をかける

🧠これは教育心理学でも知られる「自己効力感(self-efficacy)」の向上につながる働きかけです。


■ ROOTS:リスペクトの5本柱

選手が長くスポーツを続けるうえで最も大切なのは、人との関わり方
そのために重要な価値観が「ROOTS(ルーツ)」です。

それぞれの頭文字は…?

  • Rules(ルール)を守る
  • Opponents(対戦相手)を尊重する
  • Officials(審判)に敬意を払う
  • Teammates(仲間)と協力する
  • Self(自分自身)を大切にする

この5つが揃って、初めて「スポーツマンシップ」が育ちます。

🌱 こうした価値観を、日々の練習や試合の中で言葉にして伝えることがポイントです。


■ ダブル・ゴール・コーチとは、どんな存在?

これからのコーチは、単なる技術指導者ではなく、人生を支える教育者でもあります。

  • 勝つだけではなく、選手の「人生にも影響を与える人」
  • ミスを咎めるのではなく、「どうすれば次に活かせるか」を共に考える人
  • 感情を読み取り、チームと個人の成長を両立させる存在

コーチが変われば、選手も変わり、チーム文化も変わる。
そんな「前向きな連鎖」が、ダブル・ゴール・コーチングの目指す世界です。


■ 現場での実践アイデア

「いい話だなぁ」で終わらせないために、明日からできる小さな一歩をご紹介します。

✔ 1. 練習後に「今日のよかったこと3つ」を共有

→ 選手同士で褒め合う時間を持ちましょう。

✔ 2. 失敗エピソードを「学び話」にする

→ コーチ自身が自分のミスを語るのも効果的!

✔ 3. チームで「ROOTS宣言文」をつくる

→ みんなで考えて貼り出すと、行動の指針になります。


■ 最後に:スポーツは人を育てる“場”

スポーツは、ただ勝敗を競うものではなく、**人生を学ぶ最高の「教室」**です。
ダブル・ゴール・コーチングは、その教室の「あり方」を問い直し、「人を育てるスポーツ文化」を築くためのツールです。

これからの時代、選手も、コーチも、チームも「勝って、育つ」ことが求められています。
一緒に、その未来をつくっていきませんか?


📘 もっと知りたい方はこちら
👉 公式サイト(スポーツコーチング・イニシアチブ)

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